選考委員会委員長 養老 孟司 (ビデオメッセージ)
養老委員長は所用のため欠席され、講評に替えましてゲーム業界に携わる関係者の皆様方、 そして多くのゲームファンの方々へ向けてのビデオメッセージが届けられました。
昨年の「日本ゲーム大賞」発表授賞式の席で、私が一番印象に残ったのは、若い人が多いということでした。 そういう業界が、最近本当に少なくなってきました。 世間の色々なニュースだとか、そういうのを見ていますと、iPhoneとかiPad、そして携帯電話はそれが当たり前のような感じで、 そこにゲームなどが入っていますから、当然、この先もゲームは、どんどん発展するだろうと予測できます。 また、大学によっては新入生全員にiPhoneを持たせるという、学科があることを最近知りました。 まあゲームだけやっているわけではないでしょうけども、それを様々な形で使うことが当たり前になってくる、 そういう時代になったことをまず感じます。 さて「日本ゲーム大賞」なのですが、ゲームを作っている方の視点から賞を考える。 そういう趣旨で「ゲームデザイナーズ大賞」を新設しましたけれども、私は、これも非常に面白い、あるいは大事なことだと思っています。 よくゲームを作っている人をクリエイターと言いますけれども、もともと新しいものを作るということは、 大学などが典型的にやってきたことのはずなんです。でも必ずしも、そういう大学などがクリエイティブだとは言えなくて、 このゲーム業界などが、非常にクリエイティブな感じがします。 じゃあ、クリエイティブって何だろうって考えると、当たり前ですが、今までなかった新しいものを作るということがあります。 そしてもう一つ、新しいものをつくるということは仕事ですから、つまり、ある程度お金を稼がなくてはいけない、そういうことがあります。 しかし案外、そこのところでお金を稼ぐために研究しているという研究者はいないと思います。 でも、そういうこととクリエイションということが、必ずしも、相伴っているわけではない、 だからお金になるからクリエイティブではないという訳でもないし、お金にならないからクリエイティブだという訳でもないと思います。 そういうクリエイティブな仕事をやっている作り手自らが、賞を考えるということは、文部科学省の言う自己点検自己評価と同じで、 この賞が本当の意味での自己点検自己評価となり、ゲーム業界が全体として、どういうものを自分たちは良いと考えるか、 そういう基準になっていったら、非常に有意義であると、私は思います。 また、広く産業界全体を見てみると、今申し上げたように、きちんと自己点検自己評価ができる、そういう業界は、私は少ないと思っています。 時間が経ち業界が古くなってくると、どうしても色々なしがらみができてきて、自己点検自己評価が、怪しくなってきます。 そういう意味では、ゲーム業界というのは、新しく、まだまだ良い点がある、だから、若い人が入ってくるのではないかとも思います。 原則は何だと言ったら、私は古い人間ですから、極めて簡単に考えます。 近江商人の原則に、店よし、客よし、世間よし、「三方よし」というのがあります。 たいていの業界は、店よし、客よしの段階で止まってしまっているような気がします。 つまり、世間よしというのは、業界全体として見たときに、社会のためになっているのかどうか、 そういうことを考えなければならないことを意味します。 ゲーム業界に対しては、色々な意見があって、時々、悪く言えば、叩かれます。 そういう意味でも非常に良い位置にあると思います。 こうした批判のない業界というのは、どうしても業界全体として長い目で見れば、だめになっていきます。 世間よしということが、自然に出来てゆくゲーム業界は、幸せというか、案外、良い位置にあると思います。 ですから、そういうことを受け止めながらやっていくことが大切です。 また、これは少し言い方が難しいけれど、本当のクリエイションというのは、本人あるいはグループでも良いけれど、 モチベーションがあって、こういうものを作りたいという想いを持って、一生懸命に取組むことだと思います。 それが本来なのですが、今、かなりの仕事がそうではなくて、その仕事がもともとあるからやっている、 何か仕事のための仕事になっていて、それをクリエイションとは呼ばないのだと思います。 自分の中のモチベーションを出来るだけ実現していくという、そういう意味の仕事がクリエイション、つまりゲームを作るということだと思います。 そういうことに若い人が惹かれるのは、健康だし、当然だという気がします。 漫画なんかもそうだったのですが、私は以前から、日本のこういう社会では、サブカルチャーというものが、 案外大切な役割を持っていると思っています。こういうゲームなどの役割は、大きいと思って見ておりますので、 頑張っていただきたいと思っています。